開かずの扉
著者:るっぴぃ


 彩桜学園には開かずの扉がある。
 よく、学校の七不思議になっているあれだ。
 それは高等部のどこかにあるともっぱらの噂だった。
 曰く、入れば祟られる呪いの教室であり。
 曰く、見つける事が出来れば人生が全てうまくいく癒しの教室であり。
 曰く、悟りを得られる聖地であるなんて噂まである。
 ただ、どの噂にもたった一つだけ条件があった。
 それは男女5人組で探さなければならないというもの。
 それも、ただの5人組ではなく、クラスも部活も違う本当の有志という理由で集まった5人でないといけないという。
 それはあまりにも条件が厳しく、彩桜学園の長い歴史の中でも辿り着けたというものはほとんどいない。
 しかしそれにしては噂の持続期間が長すぎるのではないか。
 そう考えた数多の生徒たちがその教室を探しては見つけられずに卒業を迎えて行った。
 これは、そんな開かずの扉とそれを探そうとした5人の物語である。


「開かずの扉ですか?」

 僕がそう問うと相手は頷いてこう言った。
「そう、開かずの扉だ。ここ何年も目撃情報がないにもかかわらず一切情報操作を“されていないように見える”怪談。この新聞部にピッタリじゃないか?」
「それのどこがピッタリなんですか!」
「ま、要は適性試験だ。別に受からなければ退部させるなんて言わないんだから気楽にやれ」
 僕こと渡貫裕貴(わたぬきゆうき)に無慈悲な言葉をかけるのは彩桜学園新聞部3年の山田先輩だ。部活同様変な人で、新聞部は長くいる人が多いからこういう人に毒されて変人への道を歩む人も多い。
 新聞部は「生徒の自由闊達な情報伝達活動及び自主的情報収集能力向上を目指すために必要な資材や備品を集め、またこれを実行するため」とかいう長々しい主義の為に設立されて、創設からわずか3日で生徒のゴシップ記事を書くようになった曰くつきの部活だ。ただそれも初めのころだけで今では普通の学校にあるものと変わらない活動をしている。
 この新聞部が変わっているのは活動内容ではなくそのシステムで、中等部から大学院課程まで一貫して“新聞部”として活動していることだ。
 つまり中等部で新聞部に入部した人は退部届を出さない限り大学院まで新聞部員でいるということになる。
 そんな新聞部に中学の頃から在籍している僕は高校進学を控えた春休み、高等部の部室に呼び出されてそんなことを言われているというわけである。
「って気楽になんてできませんよ!」
「そう言うな。適当にやってレポートでも書けばそれで終わりなんだ。新聞記事を書かなくていいだけましじゃないか。」
「いや書きたいんですけど……」
「とにかくこれは決定事項だ。他の1年部員も似たようなことをやらされているんだ、諦めろ。」
「まあまあ、山田。あんまりいじめるなよ。これは別に強制じゃないんだから」
 そう言って会話に割り込んできたのは高等部部長の竹内先輩だ。
 このヘンテコな空間の主をやっているぐらいだから相当な曲者のはずなのに、そんな気配はみじんも感じさせない不思議な人で、僕は中学1年の時に少し見たことがあるぐらいだけど優しくていい人だった。
 ちなみに山田先輩は2年らしい。高等部での新規入部生らしいからよくは知らないけど。
「ただ部長選出の時の資料にはするから出来ればやってほしいんだけどね……。ほら、僕ら3年はもうすぐ引退しなきゃいけないから」
 竹内先輩に言われるとついやらなければならない気になってしまう。そういう雰囲気がこの人にはある。
 僕は仕方なく「わかりましたよ」と告げると一礼して立ち去ろうとする。
「おい、ちょっと待て」
 少し無礼すぎたかもしれない、そう思って山田先輩の方を振り返ると彼が一冊の冊子を放ったところだった。
 僕はあわててそれをつかみ取る。
「これは……、開かずの扉に関する記事一覧……?」
「好きに使え、それと締め切りは3年生が引退する日まで。結果は記事が書けたかどうかには関係しない。それを忘れるなよ」
 山田先輩はそれだけ言うと部室の奥の方に行ってしまった。
「素直じゃないなあ、全く」
 竹内先輩はなぜか笑っていた。
「うん、そうだね……。オカルト研究部や探偵部、犯罪部なんて言う人達に話を聞いてみてもいいかもしれないよ。僕から言えるのはそれぐらいだ。調査方法は君に一任するから、頑張ってね」
 竹内先輩はそれだけ僕に言うと、のんびりとした歩き方で奥に行ってしまった。
 僕は心の中で二人に礼を言うと、さっそく調査を始めるために走ってその場を後にした。

 僕は部屋に帰ると冊子、どうもスクラップブックのようになっているらしいそれをかばんの中から取り出して広げる。するとそこにはびっちりと文字が書き連ねられていた。
「うわあ……」
 目がちかちかするほどに押し込まれたその文字は全て開かずの扉に関する記事と、その記事に対する論評だった。
 開かずの扉がどう書かれているかというと、“地獄への扉”、“至福への部屋”、“悟りの門”、“実在しない”などで、実在しないと結論づけられているのが最も多い。それ以外では必要以上に悪く書き上げるものも多かった。それも仕方ないんどろうなぁ、と考えていると一つ、集められた噂を集めている記事があった。それによると、

 ……(前略)……。
 彩桜学園には開かずの扉がある。
 よく、学校の七不思議になっているあれだ。
 それは高等部のどこかにあるともっぱらの噂だった。
 曰く、入れば祟られる呪いの教室であり。
 曰く、見つける事が出来れば人生が全てうまくいく癒しの教室であり。
 曰く、悟りを得られる聖地であるなんて噂まである。
 ただ、どの噂にもたった一つだけ条件があった。
 それは男女5人組で探さなければならないというもの。
 それも、ただの5人組ではなく、クラスも部活も違う本当の有志という理由で集まった5人でないといけないという。
 それはあまりにも条件が厳しく、彩桜学園の長い歴史の中でも辿り着けたというものはほとんどいない。
 しかしそれにしては噂の持続期間が長すぎるのではないか。
 そう考えた数多の生徒たちがその教室を探しては見つけられずに卒業を迎えて行った。
 もしこの扉を探そうと考えるなら、この噂を“意図的に”改変しないように発信している集団の尻尾を掴まなければならないだろう……(後略)……。

 読み終えたときあたりは真っ暗だった。
 寮生である僕はあわてて時計を見るも、すでに夕食の時間を過ぎていることを知った。
 寮では特に強豪である野球部のために深夜過ぎまで食堂を開いているが、それでもこの時間までやっているとはとうてい考えられないような時間になっていた。仕方が無いので僕は諦めて駅前のファストフード店に行くことにした。長期休業中だから半額ではないけど納得するしかない。おいしいから別にいいけど。
 そこで“絶品マグロハンバーガー”を頼むとそれを持って客席に向かう。とてもではないがおなかがすいてお持ち帰りなんてできない。
 飲み下すように食べ終えた後、どうするか考えることにした。
 つまり、
    A案……取り合えず5人集めて扉について探ってみる。
    B案……取り合えず3年生を中心に聞き込みをしてみる。
    C案……A、B両方の案を同時に始めてみる。
 のどれを選ぶか、ということを。
 ただ僕は即座にC案を却下した。
「だって面倒くさそうじゃないか……」
 それに新入生にそんな時間は無い。
「さあて、どうしようかな」

to be continued…



あとがき

はじめまして。るっぴぃと申します。
これは新聞部のお話です。他の人のキャラも使ってみたいので使いやすそうな設定でいきました。
ただ他の人の設定を使おうとすると執筆速度が下がるのが問題ではあるのですが……。
そういえば渡貫君の最後の選択、A,Bのどちらにして欲しいというのがありましたら私の目に付くところに置いておいてやってください。
どちらを選ばせるかまだ決めてないので……(ヲイ)。
では失礼します。再び会えることを願って。



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